積率母関数とは

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積率母関数(モーメント母関数)とは

積率母関数(モーメント母関数)は、確率統計を理解する上で非常に重要な概念です。

確率変数XXに期待値が存在するとき、XXの積率母関数MX(t)M_X(t)は以下のように定義されます。

MX(t)E(etX)M_X(t) ≡ E(e^{tX})

積率母関数は、例えばXXが連続型で、その確率密度関数がf(x)f(x)である場合、

MX(t)=etxf(x)dxM_X(t) = \displaystyle \int_{ - \infty }^{ \infty } e^{tx}f(x) dx

と表すことできます。

積率母関数は、積分が収束しない場合存在しません。そのときは積率母関数の代わりに、特性関数を使って計算することが多くなります。

積率母関数のメリット

積率母関数を使えば、平均や分散、m次モーメントを楽に求めることができます。

確率密度関数のm次モーメント

MX(m)(t)M^{(m)}_X(t)MX(t)M_X(t)ttでのmm回微分であるとしたとき、

MX(m)(t)=E(m)(etX)=E(XmetX)M^{(m)}_X(t) = E^{(m)}(e^{tX}) = E(X^me^{tX})

となります。これが、t=0t=0の開区間で存在するとき、t=0をこの式に代入すると、

MX(m)(t)=E(Xm)M^{(m)}_X(t) =E(X^m)

が得られます。これは、確率変数XXmm次モーメントです。

積率母関数で平均や分散を求める

積率母関数を求められれば、多くの分布の平均や分散を比較的簡単に求めることができます。

例:正規分布の平均と分散(導出過程の詳細はこちら

まず、正規分布N(μ,σ2)N(μ,σ^2)の積率母関数は以下の式です。

MX(t)=eμt+σ2t22M_X(t) ={\mathrm{e}}^{\mu t+\frac{{\sigma}^{2}t^2}{2}}

この式のtでの1回微分、2回微分はそれぞれ、

MX1(t)=(μ+σ2t)eμt+σ2t22M^{1}_X(t) =(\mu+{\sigma}^{2}t){\mathrm{e}}^{\mu t+\frac{{\sigma}^{2}t^2}{2}}

MX2(t)=σ2eμt+σ2t22+(μ+σ2t)2eμt+σ2t22M^{2}_X(t) ={{\sigma}^{2}}{\mathrm{e}}^{\mu t+\frac{{\sigma}^{2}t^2}{2}}+{(\mu+{\sigma}^{2}t)}^{2}{\mathrm{e}}^{\mu t+\frac{{\sigma}^{2}t^2}{2}}

となり、この結果にt=0t=0を代入すると、

MX1(0)=E(X)=μM^{1}_X(0) = E(X) = μ

MX2(0)=E(X2)=σ2+μ2M^{2}_X(0) = E(X^2) = σ^2 + μ^2

となります。また、分散は以下により求めれれます。

V(X)=E(X2)(E(X))2=σ2V(X)=E(X^2)-{(E(X))}^{2} = {\sigma}^{2}

確率変数が複数のときの積率母関数

確率変数が複数になっても積率母関数の概念は使えます。

確率変数X,YX,Yに対して、

MXY(s,t)=E(esX+tY)M_{XY}(s,t) = E(e^{sX+tY})

s=0,t=0s=0,t=0の開区間で存在するとき、MXY(s,t)M_{XY}(s,t)X,YX,Yの積率(モーメント)母関数と定義されます。変数が複数になっても、モーメントは以下のように、tやsで微分してt=0,s=0t=0,s=0を代入することによって得られます。

MXY(m,n)(0,0)=E(XmYn)M_{XY}^{(m,n)}(0,0) = E(X^mY^n)

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カテゴリ: 統計学の基礎